社会正義のキャリア支援ーSocial Justice and Career Guidance

"There are countless ways to be useful and constructive in our society." John D. Krumboltz

コロナウィルスの時代に社会正義のキャリア支援が必要である理由

欧州の社会正義のキャリア支援論の若手第一人者トリストラム・フーリーのHPより。

https://careerguidancesocialjustice.wordpress.com/2020/03/23/why-a-social-justice-informed-approach-to-career-guidance-matters-in-the-time-of-coronavirus/

欧州社会正義論の若手第一人者のフーリーを筆頭に、サルタナ、トムセンの連名による投稿。コロナウィルスがキャリアに与える影響を議論。現在、人々のキャリアが決定的に破壊される状況にあるため、各国政府ともキャリアガイダンスを支援すべき重要な時期にあると指摘する。

1.
 欧州の社会正義論の研究者は、新自由主義的な社会の風潮によって、個人が主体的に自分でキャリアを考えるよう仕向けられている事態を批判する。進路指導、職業訓練、離転職など、公的な仕組みが機能していた領域が次第に民営化され、キャリアは「個人主導」という美名のもと完全に個人任せになってしまったとする。
 現実には、その批判は半分だけ正しい。公的なキャリアサービスが相対的に縮小したことは確かであるが、人材サービス企業が代替的に支援を提供しているため、むしろ従来よりも充実したキャリアサービスを受けられる場合も多いからである。
 とは言え、欧州の研究者が問題視するとおり、各種の民営化施策によって社会全体の無料または安価なキャリアサービスの安全網は縮小された。その結果、不安定労働者、低賃金労働者を含む「社会的強者以外の労働者」は、十分なキャリアサービスを受けられなくなったのも事実である。民営化されたキャリアサービスはビジネスである以上、選択的・選抜的に利用者を取り扱わざるをえないためだ。
 コロナウィルスのような突発的な大事件が起きた時、十分なキャリアサービスが必要なのは社会的強者以外の労働者である。にもかかわらず、そうした人々には行き渡らない。
 趨勢として公的なキャリアサービスの網が破れていった時に、世界は極めて大きな衝撃を受けた。フーリーらは、今こそ我々は、キャリア支援の重要さを各方面に訴えていかなければならないと説く。

2.
 フーリーらが指摘したいことはもう1点ある。現在、ソーシャルディスタンスを維持すべく、テレワーク、オンライン就労が一般化しつつある。自宅や家庭と密着した形で仕事をすることが、急激に現実化した。
 従来、キャリアの専門家が主張し続けてきたワークキャリアとライフキャリアの一体化は、期せずして実現しつつある。1つの建物、組織、システムの中に閉じられた働き方は、急に個人・地域・社会に開かれた。この状況を捉えて、フーリーは、「コロナウィリスが人々の仕事、学習、余暇にもたらす大きな変化に迅速に対応し、キャリアガイダンスがまさに必要なサポートであることを認識する必要がある」と述べる。
 キャリア支援者は、ワークとライフを表裏一体のものとして取り扱うことを主張し、その表裏一体の形をこそ目標や理想としてきた。いわば今現在の働き方に最も近い場所に位置する専門家である。自宅の中に仕事が侵入した現在、ワークとライフ、職場と自宅、仕事と家庭を統合する視点を持ち続けた専門家だという自覚を持ち、今、身近なところで可能な支援を考える必要があると言う。

3.
 1つの組織に緩やかに制御されながら自宅で個人で働く姿は、孤立化・孤独化を推進し、メンタルヘルス上の問題を惹起する。その重大さは軽視してはならないが、一方で、これによる1つの組織を超えたネットワーキングの可能性もフーリーらは指摘する。
 「キャリアワーカーは、支援、連帯、行動の目的で個人が集まることを支援できる。相互扶助グループは急速に出現しており、私たちはそれらの一部となる。正常な状態が新たに出現すれば、個人は、キャリアのための新しい文脈に個人的・政治的にどのように対応するかを一緒に考えることができる。」と述べる。
 アフターコロナの新しい社会環境で、どのような働き方をするのか、どのようなキャリアを目指すのかを一緒に考える重要な役割を、キャリア支援者は担うべだと述べているのである。